誤解しやすい相続~~特別寄与料の請求
請求さえすれば「遺産から多額の寄与料をもらえるとは限らない」
平成30年の民法改正によって債権分野など多岐にわたって実務上の対応がなされています。
中でも相続法の改正点についてはメディアが派手なキーワードだけを喧伝することもあり、一般には誤解が生じるおそれがあります。
「こんなはずじゃなかった。」とトラブルにならないように、今回のコラムでポイントを理解しておきましょう。
本日は令和元年7月1日以降の相続に適用される「特別寄与料の請求」についてコラムを書きます。
請求さえすれば「遺産から多額の寄与料をもらえるとは限らない」のです。
◇ミニ知識◇ 特別の寄与とは
現行民法 第1050条から抜粋
「被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与」
◇ミニ知識◇ 親族とは
6親等内血族及び3親等内姻族をさします。
1. 法改正により何が変わったか
改正前民法でも“相続人”のおこなった寄与に対する制度はありましたが、相続人の配偶者や、亡くなった本人に子が居るケースでの兄弟姉妹は相続人ではないため、亡くなった本人の生活や療養の面倒を見ていたとしても遺言や遺産分割協議で取り決めないかぎり、法制度に基づいて寄与に対する請求はできませんでした。
2.該当するには
改正民法によって創設された本制度の要件は下記のとおりです。
(1) 相続人以外の親族であること
(2) 被相続人(亡くなった人)に、無償で療養看護その他の労務の提供をし、それにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をしたこと
(3)相続の開始を知った時から6か月経過、または相続開始(亡くなったとき)から1年経過までに請求すること
つまり、法定相続人ではない、相続人の配偶者等がおこなった療養看護に関して、特別の寄与として金銭等を請求できるということです。
3.亡くなった親は富裕だった。いくらもらえるのか。
以前のコラムでもこのポイントについて書いています。
改正前民法にも規定されていた相続人の寄与と、この相続人以外の親族の特別寄与は性質が異なるものと理解しています。
相続人の寄与の方は、相続分の分割割合の調整という意味合いがあり、それに対し親族の特別寄与の方は「介護業者に依頼していたら発生したであろう費用」etc. の実費が算定のもとになっているのが現実です。
ですから、事前に遺言や相続人間での協議で金額などが決められていない場合は、いくら富裕な被相続人の看護をしたとしても本制度による特別寄与料の請求さえすれば自動的に多額の寄与料がもらえる、とは期待できないのが現実です。
まして、療養看護のために実現できなくなった学業や事業の逸失利益まで受け取るのは難しいでしょう。
この点はマスメディアでは詳しく説明せず、「もらえます!」という事だけを喧伝するため、御相談者の中でも誤解なさっていることがありました。
4.どうやって請求するか
実際に請求する場合は相続人に対して請求します。
相続人との協議がととのわない場合は、家庭裁判所に協議に代わる決定を請求します。
家庭裁判所の判断材料としては下記のものが考えられます。
(1) 寄与した期間
(2) 寄与の方法、内容、時間や日数など
(3) 相続財産の額
(4) 特別寄与者(請求している人)が生前に受けた利益
etc.
※他の論点としては相続人の遺留分との関係も存在します。
5.やはり、事前に協議・準備しておく方が良い
上記を全体的にみると何年もの期間、配偶者の親や、自身の兄弟を無償で生活や療養の面倒を見てきても、遺言などの準備をしていない場合では、亡くなってから6か月以内に自分から「特別寄与料の請求」をしなくてはなりません。
請求をするということは自分で金額算定も行ない、相続人に請求することも自分からしなくてはなりません。
その後の人生で家族から金銭目当てと誤解を受けることも懸念されます。
やはり介護や看護をするのであれば、意思能力が十分なうちに遺言や死因贈与契約を作成しておくことが最善と思います。
また、他の相続人とも早い段階でその点について話し合っておくことも良いでしょう。
※メディアやwebで見ただけの知識では、いざというときにお困りになるかもしれません。
遺言・相続は専門家に御相談ください。
御相談はお問合せページからお気軽に。
6.課税されることも忘れずに。
寄与料が金銭でも、現物であっても課税されますのでその点は御留意ください。