ひな型そのままの契約書~問題なポイント
前回はサービス利用規約等のうち「定型約款」に該当するものについて、改正民法の施行にともなう修正が必要である旨のコラムを書きました。
今回は定型約款や契約書を書籍、web上でみつけたひな形そのまま又は寄せ集めて利用している場合に生じる問題のうち一部の例を使って御説明します。
(1)損害賠償
問題のある文言
『甲又は乙は本契約に違反したことにより相手方に生じた損害を賠償するものとする。』
何が問題なのか
損害賠償請求の根拠としては「不法行為によるもの」の他に「債務不履行(この場合は、契約の規定に違反したこと)による損害」があります。
1. 消滅時効
損害賠償を相手方に請求する権利(「損害賠償請求権」といいます)には消滅時効があります。
そのため、相手方の債務不履行によって損害が発生しその賠償を請求することができる状況になっても賠償請求をしないまま一定の期間が経過すれば、損害賠償請求権は消滅します。
消滅時効は民法改正により変更された一つです。
(参考)民法第三節 消滅時効
第166条(債権等の消滅時効) 1項
債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
♠1号:債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき
2号:権利を行使することができる時から10年間行使しないとき
上記のとおり債権が消滅すると規定されています。
2. 損害の範囲
損害賠償請求の条項の書きぶりが曖昧で必ずと言っていいほど争われるのが損害の範囲です。
(参考)民法第416条 損害賠償の範囲
債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
取引金額にくらべ著しく高額な損害や逸失利益等は認められないことがほとんどです。
個人情報保護法が施行された当時は、機密保持契約についてweb上には「期限の無い機密保持義務」や、小さな漏洩リスクでも「損害賠償請求の全額を賠償するもの」等の非現実的なひな形が多く出回っていました。
争いに発展してしまえば弁護士に依頼することになり、裁判になれば決着まで数年間を覚悟しなければなりません。
(2)事業内容に関連しない条文
例 「期限の利益の喪失」
◇ミニ知識 「期限の利益」とは
例えば商品を購入して分割支払いにした場合に、一括で支払うのではないので2回目は1か月後、3回目は2か月後、というようにお金を支払う側には、支払期限に関する利益があります。
“支払日/返済日までは払わなくていい”=「期限の利益」
債務者に期限の利益が無い取引であれば不要な条文といえましょう。
上記は一例ですが、ひな型にある文章を法的な意味を理解しないまま丸写しをすると不要な条文が入った契約書が出来上がります。
(3)厳格に過ぎ、合理性を欠いている内容
例 「契約解除」
問題と思われる文言
「以下の各号に規定する事由に該当した場合には相手方は直ちに契約を解除できる。
・本契約の全部または一部に違反したとき」
例えば支払いが1日遅滞しただけで直ちに契約解除というのは非現実的です。
争いになった場合に合理性を欠いた規定は無効になることがあります。
法律以外のジャンルの士業事務所の契約書テンプレートでみかけたこともありますので、意外に出回っているひな形なのかもしれません。
契約をむすぶ際には、取引全体のスキーム、規模、債務不履行によって生じるリスクの大きさなどを正しく想定することが重要です。
法務部署の無い企業や個人間での契約書(名称にかかわらず合意内容を証するもの)は、“それらしい言い回し”にとらわれる事なく、お互いにわかりやすく、内容が明確になる文言を使うことも有用です。
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