民法~改正相続法 実際の御相談から
自筆証書遺言書保管制度など
平成30年に成立しすでに施行されている民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律に関して、御相談を受けてみると実務上でいくつか留意すべき点を感じました。
また、一般的に遺産のほとんどを占めるのが不動産ですが、遺産のうちの不動産の処分に関しても現実的にどうなるのか、今回は実務上の気になるポイントをいくつか記します。
(1)自筆証書遺言書保管制度
令和2年7月10日から開始されたばかりの制度です。
今まで自筆遺言は、遺言者が自宅に置いておくことで紛失のおそれがあったり、相続に争いがあるケースでは発見した相続人が隠匿・勝手に廃棄する等のおそれがありました。
それを「自筆証書遺言」にかぎって、法務局で保管をする、という制度です。
遺言原本と遺言の画像データの両方が法務局の保管場所で保管されますので、紛失のおそれが無くなります。
<メリット>
・紛失や火災による滅失のおそれが無くなる
・自筆遺言であっても家庭裁判所による検認が不要になる
・相続人のうち一人が閲覧した場合には、他の相続人に保管されている旨が通知される
法務省HPより http://www.moj.go.jp/content/001318081.pdf
◇ミニ知識◇ 遺言書の検認とは
誤解されやすいのが遺言書の検認です。
たとえば亡くなった家族の引出からみつかった自筆遺言書など、公正証書以外の遺言書を家庭裁判所に提出して検認を受けます。
この場合の検認は、遺言書の偽造・変造を防ぐための証拠保全手続です。
金融機関での払戻や不動産登記申請には、検認されていないと自筆遺言書では亡くなった方の意思の証明として受け付けられないことが原則です。
誤解されやすいのは、検認は遺言書の内容についてのお墨付きではない、という点です。
検認を受けてもその遺言書が必ず有効になる、ということではありません。
<手続きなど>
・申請書の用紙もHPからダウンロードできる
・預けに行く場合の予約(必須です)もオンラインで可能
・本人の希望で預けた遺言を閲覧したり、撤回したいと考えれば撤回(取り戻す)もできる
◇ミニ知識◇ 遺言の撤回・書き直し
自筆遺言にかぎらず、公正証書にしている遺言でも一度作成した後に、本人が何度でも作成しなおすことは可能です。
公正証書にしている場合は費用がかかることもあり、ついそのままという事があるようですが、安心して自分の遺志をはっきりさせるためには面倒がらずに書き直しておきましょう。
■実務から■
1.この制度の効果は、自筆遺言の内容にかかわる点ではなく、自筆遺言が紛失しない、本人の意思で作成したことが明らかになる、という点です。
遺言の内容が法的に効力を持ち、予備的な文言も入れ、相続発生後(御本人が亡くなった後)に実現するような内容にするには、やはり原稿作成には専門家のサポートが必要です。
保管制度を利用していても、いざ開封したときに内容に法的な効力がありませんでした、というのでは意味がありません。
原稿作成の際にはぜひ当事務所へ御相談ください。
2. 遺言者本人が作成して法務局に保管手続きをおこなった場合、家族にその旨を伝えていなければ、誰も遺言書があることを知りません。
保管証のコピーや、その事も書いたエンディングノートを信頼する人に渡しておくと良いでしょう。
(2) 財産目録は手書きでなく、PC作成でもOK
改正前には、自筆証書遺言は財産目録まですべてを手書きで作成しなくては有効になりませんでした。
■実務から■
1. 高齢の相談者では本文だけでも手書きすることがかなりの負担であり、財産目録は特に記入が難しく、一日では書き上げられない相談者もありました。
実際に書き間違えもあり、その度に二重線で消し、訂正印を押し、という作業で、自筆遺言作成に疲労困憊なさるものでした。
改正により、銀行口座ならば通帳のコピー、不動産ならば登記簿謄本を添付する、目録はPC等で作成することでも有効な遺言書ができることになりました。
自筆遺言の作成実務の上では、これは大きな進歩です。
2. 財産目録の重要性
御本人が亡くなった後、遺産の全体像がわからない場合には相続人がその調査をしなければなりません。
相続人が複数いるのであれば、全体像を知り、税金も考慮し、どのように相続するかを話し合います。
財産目録には、プラスの財産、そして借入金のようなマイナスの財産も含めて全てを記載しておいてあげましょう。
財産目録作成のお手伝いをいたします。お問い合わせください。
以前に書いた相続関連のトピックも御参照ください。
改正相続法1
次の機会には「遺産の一部分割」について、不動産に関連して別のトピックとして書きたいと思います。
在宅する時間が長くなったいま、遺言のこと、家族のことを考えてみましょう。