高齢者とコロナ  準備は元気なうちに今すべき-1

前回から引き続き、元気なうちにしておく最期を迎える準備について2つの事例を使い何回かに分けて書いてまいります。

<事例A>家族あり
・桜子さん
 94歳で地方都市在住。
 夫は20年前に他界したため一人暮らしですが、一人娘の夫婦が徒歩圏内に住んでいます。
 家族の認識では、ほかに子は居ないはずです。
・長女  ゆかり さん 72歳
 夫(79歳)と二人で桜子さんの家の近所に住んでいます。
・孫 謙一さん 42歳 ゆかりさんの長男
 妻、子供と一緒に東京在住。
 会社員。

桜子さんは高齢にもかかわらずしっかりしていましたが、コロナの影響でデイケアに行ける回数が減り、ゆかりさん夫婦が来るときも話題はコロナのことばかり。
同居ではないため、家に来るのも感染のおそれがあります。
精神的な影響もあり体調をくずして、桜子さんは入院してしまいました。

入院してしまうと、コロナ感染予防のために家族でも面会ができません。
病院ではオンライン面会のシステムを用意していますが、94歳の桜子さんとしてはさらに気が滅入る状況になってしまいました。また、入院により足腰が急激に弱ってしまい自分一人で歩くことはできなくなりました。
ゆかりさん夫婦も高齢であり、今後のことが不安です。

 そこで桜子さんは急遽、謙一さんの住む東京へ移転し、謙一さんの家の近所にある“介護付き高齢者住宅”に入居しました。
自宅は戸建住宅でしたが、まだそのままになっています。

◆ミニ知識  サ高住とは
サービス付き高齢者住宅(略称:サ高住)は老人ホームと異なり、全面的な介護が必要でない高齢者のための住宅です。
根拠法令: 高齢者の居住の安定確保に関する法律(略称:高齢者住まい法)
サ高住にも種類があり、「特定施設入居者生活介護」の指定を受けているところでは、介護が必要になった場合にはスタッフによる介護サービスや生活支援サポートを受けることができます。
賃貸借契約ですがバリアフリー・安否確認等の基準が定められており、一人暮らしは不安だが、必要な介護を選択しつつ自由に暮らすための住宅で、親族の自宅近くのサ高住に住むこともあります。

現在は謙一さんとその妻・子で桜子さんの生活を整えていますが、やはりコロナ感染予防のため思うように訪問をすることは許可されません。
桜子さんのような高齢の方にとっては環境が急激に変化する、知人の居ないエリアに移転する等はそれだけでも大きなストレスになります。
といって、仮にコロナに感染した場合には重症になる確率も高く、高齢者にとって難しいことが多くあります。
親の介護

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■事例Aで準備しておくこと■
1. かかりつけ医院/病院を決める
  この事例ではサ高住を運営する企業で提携する病院があるはずですが、老人ホームではありません。
  桜子さんの病状や謙一さん家族にとって便利な場所を考慮します。
  往診をする医院も増えています。

2.延命措置に関する桜子さん本人の希望を確かめる
  延命措置をしてほしくないのであれば、親族がいてもできるだけ「尊厳死宣言」を公正証書で作成する。
  延命措置以外でも、自分が意思表示できない状態で受ける医療について希望があれば、それを明確にしておく。

♣なぜ尊厳死宣言を勧めるのか
親族が本人の延命措置拒否の意思を理解していれば、一見それで問題が無いように見えます。
しかし実際には、例えば事故で家族が心肺停止になってしまったとき、例えば病院で「この措置を止めてしまえば、その時点で亡くなるのですよ」と言われると、家族としては諦めがつかず延命措置を依頼してしまいます。

◆ミニ知識  尊厳死宣言とは~医師の損害賠償責任
家族が複数人いれば延命措置に関する意見が異なることがあります。
また、資産の相続など問題の要素はさまざまです。
最近では医療現場でも尊厳死を容認する病院が多くなっていますが、もし医師が延命措置をおこなわなければ家族から医師や病院に対する損害賠償請求も起こり得るのが現状です。

【参考】 厚生労働省「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」

つまり、本人が意思表示できない状態であっても、本人が延命措置を受けたいのか・拒否したいのかという意思を明確に記載してある証拠があればそれがベストです。
それが“公正証書尊厳死宣言”なのです。
宣言の内容は本人の希望により、自分が意思表示できなくなったときの延命措置について明確に記載します。
但しこれだけ重要な内容であるため自筆の手紙ではなく、たしかに本人が正常な判断力と自由な意思にもとづいて作成した宣言であることを公証人が確認し公証した文書にすることは、必須ではありませんが重要な手続きです。

3. 現在有効な契約すべてをリストアップする。
不要な契約は解約し、可能であれば料金支払いは謙一さんが管理する口座やカードに変更する。
同様に有価証券・車両・預金口座・不動産などの資産をリストアップする。
借入金やローン等の債務が残っていないか確認し、あればリストアップする。

4. 自分の葬儀をどのようにしてほしいか、
5. いざというときに知らせてほしい知人の連絡先を家族に伝えておく。

6. 遺言
事例Aにおいて法定どおりの相続人・相続割合が希望ならば遺言は特に必要ないでしょう。
反対に法定相続分とは異なる希望がある・寄付や遺贈をしたい相手がある・嫡出以外の子を認知したい・etc. の希望があれば、遺言を作成しておく。
事例Aでは他に予想していない相続人が出現しなければ、謙一さん一人が100%を相続します。
不動産の価額が大きい等の事情があれば、相続税の予測もたてておくとよいでしょう。

7. 出生からの戸籍(できれば、という程度)
桜子さんの出生からの戸籍を取得しておくことも、いざというときの準備として役立つ。
戸籍をたどるのは意外に難しいものです。

8.その他
 現実のケースでは次のような事があります。
・今も、何十年も前に他界した配偶者が所有者になっている不動産など。
  つまり相続登記や不動産以外でも相続処理をしていないままにしてある。
・飲んでいないが、定期購入を止めていないサプリメントにずっと支払いを続けている。
  戸棚に数年分のサプリメントがそのまま置いてある。
  サプリメントに限らず定期購入品や入会している会員権を確認しておきましょう。

前回の相続にまつわる解約騒動に関するコラムも御参照ください。

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次回以降に、別の事例と各ポイントの詳細を書きます。

人間だけでなく生物はみな最期を迎えるのですが、それがいつになるのか、人間の身ではわかりません。
自分の希望に合うように早めに準備したいものです。