一人法務 総務 総務法務を応援―14-契約書[1]―定型化された契約書
企業の法務関連をする担当者や部署で担当する重要な業務の一つが
契約書の精査・作成業務です。
相手方の用意した契約書を使用するほかに、
自社では取引の都度あらたに作成するのではなく、メイン業務用に定型化した
契約書のフォーマットを備えて利用していることが一般的でしょう。
定型の契約書は業務取引で大量に締結するものですから、
契約書の内容に不備があれば複数の取引先とのトラブルを生じるリスクがあります。
そのため、法改正がなくとも定期的に見直しをかけ、
実際に生じた課題を改善する、文言を明確にするなど、
実情に応じてブラッシュアップしていくことをお勧めします。
会社設立時にwebや書籍にある雛形をみつけ、
そのまま使用している企業を多くみかけますが、
自社業務の実態に合致する内容でなければ適切なリスク回避の手段になりません。
【無料でweb等から入手した契約ひな型を使うことで生じ得るリスク】
1. そもそも法に合っていない
2. 根拠法が古くなっている
3. 自社に合わないー組織、業務フロー、業務の性質、etc.
4. 誤りのある原稿
・・・等
特に2020年は改正民法が施行されるタイミングです。
あらためて法を意識するきっかけになさって下さい。
(1) 契約の基本
1. そもそも、契約を締結する目的は何でしょうか。
◆ミニ知識 「契約」とは
申込みの意思表示⇔承諾の意思表示が合致することで成立する法律行為です。
「あなたの所有する、そのバッグを10万円で買います。」⇔「このバッグを300万円で売ります。」では、
意思表示が合致していません。
「このバッグを10万円で売ります。」ならば、意思表示が合致します。
契約書を作成しなくとも、相対の意思の合致だけで
法的な拘束力が生じ、つまり契約が成立します。
しかし現実には、契約の目的、金額、業務の詳細(仕様)、納期、契約期間、
解除ができる条件、支払期日、支払方法、
トラブルになった際の解決方法など、お互いに合意する内容は多く、細かいものです。
また、口頭の約束では「言った、言わない」「そのようなつもりではなかった」etc.
リスクが存在します。
そのリスク回避を目的として書面で作成し、お互いの合意を
正当な権限のある者が証することで、
合意内容を示すものが契約“書”です。
(参考)現在では電子契約書も普及し始めました。
関連する法
・電子署名法
・電子帳簿保存法
【誤解しやすいポイント】
1. 契約書の名称は法的効力を決めません
「“覚書”“念書”などの名称だから、正式な契約ではない。」というのは誤解です。
“売買契約書”のような名称以外に、さまざまな文書の名称がありますが、
その法的効果は内容によって定まります。
名称はひと目で内容が区別できるようにするため、
「~~契約」「同意書」「協定書」「MOU」「事前合意書」etc.
さまざまな名称があり得ます。
2. 押印の効果
一般消費者・個人事業主の御相談のなかであるのが、
「ハンコを押しさえしなければ、こんな契約はしないですんだ」というフレーズです。
高額な物品やソフトの購入申込みをした場合等に、
認印を押した押さないという点よりも、自分で署名をした、
という点がポイントです。
下記のとおり、「署名」とは本人が自分の氏名を手書きするものです。
そのため、署名をしていればその申込みの意思が本人の意思であるという証明の効果が高いのです。
◇ミニ知識 署名、記名、押印の効果
・署名とは―― 自分の氏名を本人が手書きしたもの。
・記名とは―― 署名以外の方法で氏名を記載すること。
印刷やスタンプを用いることが多い。
┗ 企業間の契約締結の際には、企業の名称、本店住所、職位、
代表者名などはあらかじめプリントされていることが一般的です。
その場合でも企業の登録印(実印)を用いず、契約書用の印を押印する、
部長などの一定の権限を持つ役職者の印を押すことがあります。
・押印とは―― 作成書類の真実性や作成者の責任を明示するため、権限者や作成者の印を押すこと。
┗ 日本では、現在でも署名よりも印を押すことが一般的です。
┗ 海外との取引において契約書を締結する場合に署名を求められたことがおありと思います。
日本企業の登録印(法務局に登録した会社代表者印)に代る制度として、
サイン証明があります。
(参考)東京商工会議所HP
サイン証明
(2)社内で定型化している契約書
たとえば物販業の「売買契約書」、不動産賃貸の「賃貸借契約書」、
ほかにもコンサル契約、業務委託契約と、
自社がメインとしている業務に関して定型の契約フォーマットがあることが一般的です。
1. その場合、新規取引先と締結に向けてのフローは次のようなものです。
それまでフォーマットの内容確認を依頼せず、取引条件や仕様が確定した後に
作成した契約書を唐突に提出したのでは、取引先の契約審査がとおらず、
取引開始が遅滞することにもなります。
2. 社内での運用
自社内では社内規程により、機動性・法と社内ルールの遵守による
リスク回避のための運用をします。
下記は一例です。
・ 契約管理規程
・ 与信規程
・ 印章管理規程
・ 稟議規程
・ 職務分掌規程
以前にあった例では、複数事業部のうち一部の事業部長が
「○○事業部長之印」を会社の承諾無しに作成、
取引先との契約を行っていたという事例がありました。
事業部長であれば一定の権限があると社外から理解され、
“表見代理”が成立すると思われますので、このような例は要注意です。
社内規程が整備されていない状況では契約締結までに日にちがかかり、
事業の機動性を損なうおそれがあります。
企業にとっては、タイミングを逃さず利益をあげることが目標です。
現実的なフローを踏まえて、規程や運用ルールを整備しておくことをお勧めします。
◆ミニ知識 表見代理とは
無権代理による取引(権限のない代理人など)は、本人(=この場合は自社)との関係では本来無効のはずです。
しかし取引の相手方が、無権代理人を真実の代理人だと誤信したことについて、
何らかの正当な理由がある場合にはその取引が有効とされること。
<3つの類型>
1.代理権授与表示による表見代理
2.代理権消滅後の表見代理
3. 権限踰越の表見代理
このうち、上記の事業部長の例は3.の権限踰越の表見代理の問題です。
自社サイドの帰責性を避けるために、自社との契約には会社が承認した印影と印章を管理し、
契約行為はどの職位の社員に権限があるか、を明確にルール化しておきましょう。
改正民法のポイントでもこの条文第109条は改正されますが、
こちらは代理権表示に関連する内容であるため、今回は説明をしていません。
印章管理規程を定め、正しく会社の印、ハンコを管理することは重要なリスク回避手段です。
当事務所では規程作成の際には、付随する帳票等も一式で作成して現実に運用できる規程整備をいたします。