管理部門・バックオフィスの役割 基礎編
(1) 理解されにくいバックオフィス業務の重要さ
新会社法により株式会社設立の資本金下限がなくなる等、起業が容易になりました。それに伴い、事業力のある個人や複数メンバーで株式会社設立をすることが急増したように感じています。
一人取締役、または数人のメンバーによる画期的な事業スキームで独立、設立から短い期間で年商が大きく伸びる企業も多くあります。その時点で懸念されるのが管理部門(バックオフィス)の意識、発信力です。「間接部門」とも言われ売上とはダイレクトに結びつかないことから事業系の経営層がその重要性を理解しにくい部門でもあります。
よく聞くのは事業系出身の取締役から「それすると、いくらになるの?」と問い詰められたという話ですが、コンプライアンス推進などは特に反発も多いジャンルです。
他社事例や、放置するリスクと活動から得るものをできる限り具体的に示し、理解を得るようにしたいものです。
(2)管理部門内の部署・セクション
最も基本的な役割(部署)としては、人事、総務、経理、情報システム部があります。
会社規模や事業特性により、細分化して特化した担当を置く、反対に不要な部署は設置しない、業務量により兼任するなど現実的に調整します。
例えば「総務」であれば次のような役割を担っています。
※グループ分けは個人的なイメージであり、リストは一部の例示です。
A グループ(イメージとしてはファシリティ・マネジメント)
① 用度品・機器等の管理・購買
② オフィス環境整備
③ 防災・衛生・保安
④ 地域近隣との関係
⑤ 文書管理
⑥ 社屋・寮・倉庫・駐車場などの管理
Bグループ(イメージとしては総務法務)
① 社内規程整備
② 株式事務
③ 株主総会・取締役等の運営~議事録整備
④ 個人情報保護
⑥ 官公庁への届出、許認可
⑦ 子会社等の管理
◆ミニ知識◆ 関係会社 と 関連会社 子会社
(会社計算規則 第2条第3項)
関連会社:
会社が他の会社等の財務及び事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができる場合における当該他の会社等(子会社を除く。)をいう。
関係会社:
当該株式会社の親会社、子会社及び関連会社並びに当該株式会社が他の会社等の関連会社である場合における当該他の会社等をいう。
関係と関連、誤りがちな用語ですが関係会社の方が広い概念です。
(会社法第2条第3号)
子会社:
会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社がその経営を支配している法人として法務省令で定めるものをいう。
※ここでいう「法務省令」は「会社法施行規則」です。
(会社法施行規則第3条)
法第二条第三号に規定する法務省令で定めるものは、同号に規定する会社が他の会社等の財務及び事業の方針の決定を支配している場合における当該他の会社等とする。
※法を確認する際には次々に他の法令省令規則などをたどって行くことになりますが「e-Gov法令検索」では簡単に条文を見ることができ、しかも改正された内容が即時に反映されています。
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同様に人事のメイン業務も下記のように大きく分けられます。
①採用
②労務管理
③人事制度
④人事考課
⑤研修
ここから、新卒採用・キャリア採用・エグゼクティブ採用、キャリアパス制度、グローバル人事など必要があれば細分化しその分野を強化することになります。“人”で成り立っている企業の根幹を担う部署です。
管理部門には他にもさまざまな部署があり得ます。企業により異なりますが一例として御参照ください。
・法務
・財務
・税務
・知的財産
・秘書室
・IR
・広報
「経営企画室」「内部監査室」は経営層直下に置かれることが一般的で、管理部門と連携し業務を遂行します。
(3)ルーティン業務・定型業務とアウトソーシング
給与計算、経理データ入力などのルーティン業務(定型業務)はアウトソーシングという選択肢があります。
また、ルーティンでなくとも契約書作成精査などは当事務所のような外部専門家に委託することもでき、税務申告・労務問題・訴訟などは発生ごとに税理士・社会保険労務士・弁護士等の専門家に依頼することになるでしょう。
アウトソースすることのメリットは、質の高い役務を、必要なときに必要なだけ受けられることです。
・人件費のコントロール
・内部人員の最適化→自社社員は社員にしかできない業務に専念できる
・専門知識のあるアウトソーサーに委託できる
(4)管理部門としての考え方
企業全体がスムーズに活動できるように、全社に最適な環境やリソースを広い視野でととのえることが管理部門の業務です。
どの部署も特化した法令やルールを理解し、改正情報などをいち早くキャッチしなくてはならないことは共通していますが、特に管理部門(法務部があれば法務部)では、事業全体を考慮して法的リスクをいち早く発見し該当する部署にアラームを伝え、改善手段を提供しましょう。
どの場合も記録は非常に重要です。
議事録、面談報告、文書履歴、証明書など、ケースごとの様式を作成して使用します。不要必要の判断がつかない場合には記録する、という行動を習慣にしましょう。記録した文書による報告や承認を得る場合には様式に報告の受領者や承認者の欄を設けて、承認ルートにのせる仕組みにすると手続きの漏れを防止できます。
最近はテレビドラマでも「コンプライアンス室」が主役になる時代になりました。バックオフィス業務は、企業を守ることにもつながります。外部専門家も利用し、業務の質と効率アップを図ってください。