遺言と事業承継 

後継者問題で事業を廃業するケースをときどき耳にします。
また、後継者が存在しても価値のある要素を上手に承継できなければ、既存事業を承継するメリットは減ってしまいます。

<承継する資産の例>

・事業用資産・・・不動産、機械機器など
・現預金や有価証券
・技術、ノウハウ、特許などの知的財産
・信用、顧客、顧客情報
・許認可
・人材

承継プロセスや承継後の意思決定をスムーズにするためには、まず跡継ぎになる相続人が株式や資産を承継(相続)することです。
しかし生前に準備をしていなければ、法定相続人が複数存在するときには資産や会社の株式も民法規定の法定相続分どおりに分散して相続されることが原則です。

<事業用資産の分散>

・意思決定に不可欠の議決権が法定相続分どおりに分散して株式が相続された
・複数の兄弟姉妹・すでに死亡していればその配偶者や子が、それぞれ株式を相続し保有している
・事業に利用している本社や工場の建物・土地の所有権が分散して共有状態
・日常の事業運営に必要な現預金が分散して相続されてしまった。

相続発生後に遺産分割協議を行う方法もありますが、これは法定相続人全員で合意する必要があります。
また、事業承継を目的とせずに作成した遺言があったときには遺言による指示や指定された遺言執行者の権限などもあり、承継が難しくなることもあります。

<個人事業か法人か>

個人事業と株式会社などの法人では、遺言の内容は別に検討する必要があります。
また、事業規模によっても検討課題は異なるでしょう。

<事業承継のための遺言>

後継者に事業用資産を集中させるための遺言ですが、単純に何もかも後継者に「相続させる」という内容だけでは起こりうる問題があります。
1. 後継者に事業用資産を相続する点だけを遺言にしたため、事業用資産以外の遺産との合計額が他の法定相続人の遺留分を侵害してしまった。
  → 遺言作成のときに遺産全体の合計額をできるかぎり把握し、
    事業用資産以外の遺産は、後継者でない相続人が相続する等の策で防止します。
2. 遺産のほとんどが事業用資産であるが、法定相続人が複数存在する。
  → 後継者が他の相続人に代償金を支払うなどの方法をとる。
保険金は原則として遺産に含まれません。
   保険金受取人に後継者を指定しておき、代償金支払いの原資にすることも考えられます。

<遺留分に関する民法の特例>

個人事業または中小企業であり、要件を満たすことができれば特例適用の可能性もあります。

【参考】中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律
第二章 遺留分に関する民法の特例
第3条 (定義)
第4条 (会社事業後継者が取得した株式等又は個人事業後継者が取得した事業用資産に関する遺留分の算定に係る合意等)
第5条 (会社事業後継者が取得した株式等以外の財産又は個人事業後継者が取得した事業用資産以外の財産に関する遺留分の算定に係る合意)
第6条 (推定相続人と会社事業後継者又は個人事業後継者との間の衡平及び推定相続人間の衡平を図るための措置に係る合意)

経営承継円滑化法による、遺留分に関する特例を利用するには
要件を満たした上で
  ↓
推定相続人全員と後継者で合意し
  ↓
経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可を受けます。

現預金や株価評価は変動するため絶対安全という策は難しいものです。
しかし遺言作成による準備をしないまま他界してしまうリスクを回避するため、遺言の活用を検討してみましょう。

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