相続~改正民法の「特別の寄与」
亡くなるまで介護していた長男の妻はいくらもらえるのか?
今回は相続のトピックの中で「特別の寄与」について書きます。
民法の改正により改正前からある「寄与分」とは異なる考え方の「特別の寄与」という制度が、あらたに設けられました。
◇ミニ知識◇ 「寄与分」と「特別の寄与」の違い
「寄与分」
被相続人の財産の維持、増加に特別の寄与をした“相続人”の受け取り分。
つまり請求できるのは相続人に限定される。
「特別の寄与」民法第1050条1項
① 認められるのは「相続人ではない親族」(一定の要件あり)
例えば、亡くなった人の子の夫や妻など
② 寄与の内容は「療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人(亡くなった人)の財産の維持又は増加について特別の寄与」
③ 上記の寄与に対して対価を得ているケースでは、すでにその寄与は精算が済んでいるとみなされることもあり得るので留意。
④ 権利行使の期間は規定されている。
改正民法第1050条2項ただし書き。
(1) 御相談の内容
※本人の御了承を得て当コラムに載せています。
Aさんは結婚後もフラワーアレンジメントの教室を開いており、一定額の売上を得ていました。
夫から相談を受けて約5年前に、義理の父(夫の父親)の介護のためにその仕事をやめ、家で義父の介護をするようになりました。
夫には妹が1人いますが、実の父の介護には協力してくれなかったということです。
在宅介護というのは、ほとんどの場合で労力以外に精神的にもかなりの負担があるものです。
特に認知症がある場合において、介護をする人の苦労は並大抵のことではありません。
また、Aさんとしては好きな仕事をやめた事が大きな後悔となっています。
今年になってその義父が他界。
Aさん家族と義父が住んでいた住宅のある土地と金融資産があります。
義父は遺言を作っていませんでした。
(2)遺産分割協議は相続人間で
Aさんの夫とその妹の間の協議では今のところ争いはなく、土地はAさんの夫が相続する、金融資産も等分ではなく配慮のある分け方をする予定です。
ここで、Aさんが「私はいくら遺産から受け取ることができるのだろう?」と感じるのは自然なことです。
Aさんの行った特別の寄与は「被相続人に対し無償で療養看護その他の労務を提供したこと」です。
(3)いくら受け取れるのか
特別の寄与分の請求は、相続人に対して行います。
まずは話し合いです。
話し合いで金額等がまとまらないのであれば、家庭裁判所に処分を請求することになりますが、親族間の協議であっても基礎知識を以て話し合いに臨むことが必要でしょう。
むろん被相続人の遺産の額、亡くなった義父の要介護度、そしてAさんの介護の内容など、要素は複雑です。
理論としては「Aさんが5年間おこなってきた看護・介護と同程度のサービスで介護事業者を利用したときに予想される費用分」が目安になります。
当事者間の協議がととのわず家庭裁判所の処分を請求した場合には、介護の専門家ではないことから金額の調整もあろうと予想されています。
ただし、Aさんが気になっているポイント“もしフラワーアレンジメント教室を継続していたとしたら、得られたはずの利益”については、義理の妹さんがどう考えるか、難しいでしょう。
当事者間の協議であれば各人が同意すれば金額を決めることが可能です。
過剰に期待せず、紛争になって家庭裁判所に処分を求めるところまでいかないように円満にまとめることは難しいことですが、協議前に目安や手続きを知ることで少しでもスムーズに進むようにしましょう。
(4)請求権の期限、課税など
協議がととのわず家庭裁判所に処分を請求する権利の期限は次のとおりです。
・特別の寄与者(このケースでのAさん)が相続の開始を知った時から6ケ月を経過したとき、
・又は、相続開始から1年を経過したとき
特別寄与料に課される税金は遺贈の性質です。
そのため、法定相続人に課される相続税に2割加算した税金が発生します。
ますます高齢化する社会で介護施設もさまざまな種類があります。
在宅介護でも、介護事業サービスをうまく利用して家族ができるだけ楽しく過ごせるようになりたいものです。
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