成年後見・家族信託・遺言――長所と短所を補う組み合わせで使う(前編)
2020年も9月になりましたが、コロナウイルス、猛暑とも一向に止む気配がありません。
在宅時間が長くなるこの時期に、あらためて自分と家族のために最期のことを考えてみましょう。
■成年後見・家族信託・遺言――長所と短所を補う組み合わせで使う■
人は誰も永遠に生きるわけではありません。
自分の希望する最期を迎え、遺す財産は自分の計画どおりの人に・目的に、役立てることは、非常に重要でいながら実現には法制度の知識が必要です。
後見制度だけではできないこと、遺言だけではできないこと、どの手法にも特徴があります。
2020年現在の最善策はそれぞれの特徴を理解した上で、自分の希望や家族の状況に合う手法を組み合わせて希望を実現することです。
ほかに死後事務委任、尊厳死宣言などについても併せて考えていきます。
(1) 成年後見
高齢化の進む日本で、数年前まで成年後見制度がもてはやされていたように思いますが、法定後見・任意後見ともに後見制度には留意点も多くあります。
実際の御相談から、「早まった、失敗した」という事態にならないように気を付けるポイントと個人的に考える第一は次のポイントです。
『後見開始後は、本人のためにしか1円たりとも使えない』
該当する御相談では、後見申立をする前に打合せをしたため間に合いました。
(依頼者の了解を得てコラムに書いています。)
80代半ばの御両親。夫はAさん、妻はBさん。
子供が二人。このうちの長男Cさんが、企業法務で以前から当事務所とお付き合いがありました。
Bさんは寝たきりで認知症もあり、有料老人ホームに入所していました。
夫のAさんは長年家族で住んできた都内の戸建て住宅に一人暮らし。
20年ほど前にこの土地と家屋の所有権を妻Bさんに譲渡しており、土地も家屋も所有権はBさんの単有です。
長男Cさんが、会社の顧問税理士から「Bさんの法定後見の申立をするように」強く勧められていました。
もしそのときAさんとCさんで、妻・母Bさんの法定後見を開始させてしまったら、Aさんや家族の誰かが重病になって治療に大金が必要であっても、登記上でBさんだけの所有になっている家屋・土地を家族のために売却する、ということができません。
後見開始後は、本人の資産は明確に本人のための支出でなければ支出できないからです。
また、Bさんは老人ホームに入所しているので、詐欺被害で財産を失うおそれは低いはずです。
そうであれば法定後見開始によって守る必要性も低いと考えられます。
他に例をひくと、今まで何十年も被後見人本人名義の財産で家族が生計をたててきて、それが本人の希望であったとしても、後見開始後はそれが認められず家族は路頭に迷うことになりかねません。
ですから、後見制度の長所と短所をみきわめてプランすることが重要なのです。
◇ミニ知識 法定後見と任意後見◇
後見制度は大きく二つに分かれます。
♠法定後見:根拠法は「民法」
本人の“判断能力が低下”(= 認知症や知的障害等により、正しく判断ができないこと)してしまった後に、家庭裁判所に申立をし認められて後見が開始されます。
「後見人」(契約行為等の法的事務を本人に代わってする権限を持つ人)には、裁判所が選任する弁護士や司法書士がなります。
その報酬も必要です。
要するに今までの本人と家族の人生を全く知らない他人が、本人(「被後見人」といいます)の財産全てを厳正に管理することになります。
♠任意後見:根拠法は「任意後見契約に関する法律」
判断能力が低下する“前”に、後見契約を締結し、実際に判断能力が低下したときに後見が開始されます。
正しく判断できるうちに、本人の希望で信頼できる人(家族でも家族以外でもOK)を選任し、公正証書で任意後見契約を締結します。
契約ですから後見人の権限なども本人と受任者(後見人になる人)との間で決めることができます。
ただし、後見開始時には後見監督人が選任されます。
(2) 遺言
クライアントと話している際に意外に誤解が多いと感じるのが次の2点です。
1. 兄弟姉妹が相続人になる場合
2. 相続放棄
1. 相続人としての兄弟姉妹には、遺留分が認められていません。
2. 上記の理由から、被相続人(亡くなった本人)が遺言等で、兄弟姉妹以外の人に遺産の全てを遺贈することを指定していた場合には、特段の事情がなければ相続放棄の申述をする必要はありません。
ただし、被相続人に負債がある場合等で相続放棄をおこなう必要があるケースは別とします。
また、相続人が配偶者、子、などの場合には代襲相続の制度がありますが、その場合でも相続人が相続放棄をしてしまえば代襲相続の権利もなくなりますので行動は慎重にしましょう。
遺言のその他の点、家族信託ほかについては次のコラムで書くことに致します。