相続法の改正(2) 預貯金仮払い制度・生前贈与など

前回の続きとして相続法の改正<3><4><6>についての説明です。

<3> 遺産分割前の預貯金の仮払い

NEW 生前に遺言を作成していないケースで、遺産分割を行う前に被相続人の預貯金のうち一定の額までの払い戻しが受けられる制度ができます。

■次の2つの制度が創設されます。
① 家庭裁判所に対し、遺産分割の調停/審判の申立てを行うことで家庭裁判所の判断により、預貯金の全部または一部の仮払いを受けることができる。
② 法定相続人の各人が、次の計算による金額を上限として単独で金融機関の窓口で仮払いを受けることができる。
「法定相続人1名が単独で仮払いを受けられる金額上限」=
      「相続開始時(死亡時)の口座ごとの預金額×3分の1×その相続人の法定相続分」

 上記①については、家事事件手続法第200条に条項が追加されます。
現在は原則として遺産分割が終了するまでは共同相続人全員の同意がなければ払い戻しを受けられませんが、それでは相続人に経済的不都合が生じることがあり、その対応として新設されるものです。
但し、 “即時に”必要な資金を得られるものではないという点が欠点でしょう。

 また、②の方は改正後民法第909条の2として創設されます。金融機関ごとの上限額は、今後に法務省令等で定める予定ですから上記の計算で導かれる金額がそのまま上限額になるわけではないようです。

平成29年の試案では金融機関ごとに100万円を限度とする提案がありましたので、この金額が目安になるでしょうか。
 金額はさておき、親族の死亡後の葬儀等費用などで現金がすぐに必要にもかかわらず、払い戻しが受けられずに相続人がお困りになるケースは現実によくありますので、それが変わるのであれば現実的で良い制度と感じています。

<4> 遺留分算定における生前贈与の範囲

 現行では相続人に対する生前贈与は、その贈与がいつ行われたものであっても、遺留分の算定基礎財産に持ち戻されます。
NEW 改正民法では相続開始前の10年間の贈与に限定されます。
→ これは下記の<6>ともリンクし、特に事業承継の必要のある相続などで権利に関する手続きがシンプルになるのではないでしょうか。

<6>遺留分減殺請求の効力の見直し

遺留分の減殺請求がされた場合、現行では原則として”贈与された財産そのもの”を返還するため、例えば、親が子のうち一人に事業承継のために贈った自社株や、不動産等に関して複雑な共有関係が生じます。
NEW 改正民法では、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求できることとされました。

金銭の請求であれば権利処理が容易になることが期待できます。

◊次の回で、その他の相続法改正についての記事を続けます。

【法改正に共通する留意点】

施行される日以前には、改正法は適用されません。

それぞれの適用要件など、詳細は行政書士等の専門家に御相談ください。